本研究では日常会話に使われる動詞の丁寧体に関する言語的な違いについて、テレビドラマや番組のセリフと日本語教師発話コーパスとBTS による多言語話し言葉コーパス日本語会話1のデータを用いて研究する。
2。 先行研究
2。1 動詞丁寧体の種類
現代日本語では、動詞の丁寧表現として用いられる形式が3種類存在する。「飲みます」という「ます」の形式と、「飲みません」という「ません」の形式と、「飲まないです」という「ないです」の形式である。本来、動詞の否定丁寧表現には「ません」を用いるが、話し言葉では「ないです」が多く使用されている。
田野村忠温(1994)では昔、「ません」の形は認められ、「ないです」の形が無視されていたことは、日本人による文法記述における一種の習慣だと考えられている。非母語話者にとって、「動詞+です」という丁寧形がほとんど使われていない形式である。学校の授業では、生徒たちが「ます形」しか使わないようで、教科書にも「動詞+ます」だけ紹介されている。
2。2 丁寧形の起源や変化
伝統的な日本語では、原則的に「です」は名詞専用、「ます」は動詞・形容詞専用という使い分けが守られていた。
(1)山です。
(2)行きます。
(3)美しゅうございます。
(4)行かないです。
ただし、このうち形容詞については、「美しゅうございます」とはなんとも大げさではないかということで、「美しいです」という言い方も戦後の国語審議会で認められるようになった。
その後、「名詞だろうが動詞・形容詞だろうがぜんぶですで済ましてしまおう」という動きがでてきた。论文网
肯定形の「行くです」は、一部の地域以外ではほとんど使わない。しかし、否定形の「行かないです」は、くだけた言い方としては頻繁に耳にするものになっている。否定形のほうがよく使われているのは、「行かない」という形が、「美しい・うるさい」などの形容詞と同じく「~い」で終わっていることが原因だと思う。つまり、「美しいです・うるさいです」が認められるのなら、形のよく似た「行かないです」だっていいではないか、という発想が無意識に働いたものと考えられる。
動詞の「ません」形は昔からあったが、動詞の「ないです」形についての辞書はなかった。枝誠記の『日本文法口語篇』(1984)に「動詞+ないです」に関する説明が初めて現れたが、それを正しい文法とは認められなかった。しかし、その後、動詞の「ないです」形についての詳しい説明はなかったといわれている。2003年まで、『現代日本語文法4第8部』では動詞の「ないです形」はみとめられてくる。
3。 動詞丁寧体の使用状況
動詞の丁寧形というと、常に「ます」形が頭に浮かんでくる。たしかに、昔から動詞の「ます」形はよく使われている。
田野村(1994)は、書き言葉コーパスである新聞記事から述語否定形の用例を集計し、「ません」16631 例、「ないです」268 例という集計結果を出している。書き言葉コーパスの影響が大きいと思う。
それに対し、野田(2004)は、若年層に対する用例調査とアンケート調査を行い、自然談話では「ないです」が多く使用される一方、「ません」は規範的な形として位置づけられていると述べている。以上述べたものによると、動詞の「ません」形は書き言葉だけでなく、話し言葉にもよく使われると言える。