2.3 日本語の敬語動詞の主語規定性
敬語的表現は、多かれ少なかれ世界の諸言語に共通するものだといわれる。現代中国語でも、敬語的な言い方はかなりある。しかし、日本語の敬語に見られるような形態的手段による敬意表現はほとんどなく、語彙的手段によるものが多い。語彙的といっても、だいたい、人称代名詞、自分や話し手のものについて言う場合が多く、敬語動詞はわずかしか存在しない。ところが、日本語の場合、もちろん敬語全体として、中国語より複雑であるが、ことに相手の動作と自分の動作に関する敬語的表現形式が非常に発達している。同じ動作を表すのに、自分あるいは自分側に属する場合と相手あるいは相手側に属する場合、また、目上と目下の場合、先輩と後輩の場合などでは、
表現形式が違う。それで、これらの敬語動詞が文面に現われると、動詞によって喚起されるイメージには、動作の主体が浮かんでくることが多い。従って、動作の主体を表すことばが省略される可能性が大きいのである。以下、尊敬語と謙譲語について見てみる。