1.2 先行研究
これまで、東野のベストヒット作『白夜行』に関する研究も数少なくない。あらゆる資料を調べてみたところ、それについてすでにある程度の検討を行ったということがわかる。先行研究では主に『白夜行』の社会性論、人間性論、登場人物論、叙事の方式と作風論、そして原作と映画とテレビになった作品の異同論などに着目している。
社会性論では、張景一氏によれば、『白夜行』は東野が本格ミステリー作家から社会派推理小説家へ転換する作品だと言えるとしている。そして、張景一氏は旧社会派推理小説家の代表として国の間の矛盾を重視する松本清張と違い、東野は人々にとって身近な社会のリアリティに目を向けることを論じた。張景一氏の文章を見ると、『白夜行』が社会の各方面を暴露し、人並みの生活を描き、社会のリアリティを反映しているということがわかった。
人間性論では、学者は二つの派に分かれている。一つは、主人公の不幸な境遇を同情すると同時に、主人公が人間性の絡み合う状況、社会原因で罪をやむなく犯すことを主張するものである。牛麗氏は主人公のヒューマニティーの変化を視点として、『白夜行』が人間性、愛と孤独に関する小説であると認めている。もう一つの派は、罪を犯すのは、人間性の歪曲と変形のためであるという観点を持っているものである。覃霄氏は『白夜行』の主人公が生き残るため絶えず周りの友達と肉親を傷つけるということを通じて、人間性の歪曲と変形を明らかにしたのである。池田裕美は『歎異抄』第十三条を手がかりにし、『白夜行』が「業」の小説だと考えるのである。
登場人物論では、多くの学者は女主人公である雪穂を研究対象として様々な見解を発表したものがある。金華氏は雪穂が多重人格を持っていることを述べた。王紋氏は雪穂を美しく残酷な魔女になぞらえた。そして、李雪氏は利己的であるが完璧な雪穂のイメージを論じた。それでは、雪穂は災禍を引き起こす美人だろうか。どのような女が災禍を引き起こすのであろうか。なぜこれらの女性がこのようになったのか。陸昕氏はこの問題についての研究をした。そして、男主人公である亮司については、姚建美氏は罪業の深い亮司は本性が善良であるという点を指摘した。李雪氏は亮司が私心のない見張りであることをまとめた。亮司は雪穂のためなら、なんでもするつもりだったのである。
叙事の方式と作風論では、王婧殊氏は『白夜行』の構造の複雑性、叙述の精密性と読者への前例のない想像の余地などについて論述を展開する。それと、金涛氏は叙事の時間、叙事の視点、叙事の構成そして叙事の全体という四つの方面を分析し、叙事の方式と役作りへの影響を考察した。錢燕青氏は小説のテーマ、構成と社会性という三つの視点から、『白夜行』の作風を分析したのである。