1.2先行研究
周知のとおり、中国は遥か昔から文化大国であり、漢語には長い歴史がある。しかし、孔子学院が設立されたのは、2004年の韓国のソウルが最初である。孔子学院は世界各国に中国語を普及し、中国への理解を得るために設立された政府機関である。2004年から2014年9月までに、世界456ヶ所に設立されている。だが、2012年、中国国務院参事、孔子学院総部総幹事許琳は、海外で中国語を学ぶ人とや中国を知る人は急速に増えているが、孔子学院が短い時間でそれに対応できていないことも事実であると述べている。
湯丹の『孔子学院跨文化传播遇到的问题』によると、2012年までに、全世界で約1億人が漢語を学び、400万人の漢語教師を必要とするが、実情の教師は5000人のみであると述べている。また、湯丹(2012)は、次のように述べている。
対外漢語教学の教師を育成するのは、孔子学院の主要な任務の一つになり、孔子学院が設立されてから、常に世界の人々に問われている問題である。その上、孔子学院は未だに文化伝播や国家形態の先入観を解消することができていない。海外の人々はまだ固有の考え方や偏見で孔子学院の文化の伝播を認識している。
師艷栄(2011)は、国際交流基金を例にとり、国際社会における日本語教育の普及に重要な役割を果たし、積極的に日本語教育政策を行っていることを指摘している。従って、筆者は中国語の海外普及には、国際交流基金に学べることがあると考えている。しかし、先行研究では、国際交流基金の経験に基づく解決策などは、ほとんど言及されていないようである。従って、それを課題として研究する価値があると考えた。よって、小論は、国際交流基金の日本語海外普及政策を分析し、併せて中国語の海外普及について考えていきたい。
1.3本稿の目的と方法
中国は長い歴史を持つ文化大国だが、中国語の海外普及事業の発足は遅く、21世紀になって初めてその機関が設立された。従って、まだ経験が浅い孔子学院は中国語の海外普及における数多くの問題に直面している。本論文は国際交流基金のオフィシャルホームページを調べ、各国別の情報や海外日本語教育機関調査、国際交流基金の研修事業などの資料を集め、詳しく分析する。また、国際交流基金の日本語海外普及の具体的な施策や方針を研究し、その成果をまとめる。それを参考にし、中国語の海外普及の可能性を探ることを目的とする。
2. 海外日本語事業の現状と発展の趨勢
2.1 海外日本語事業の現状
国際交流基金が3年ごとに実施している「日本語教育機関調査」によると、世界の日本語学習者総数は、2012年度の結果で約399万人となった。1979年の同じ調査では13万人弱であったので、30年余りで約31.3倍に増加したことになる。ただし、2009年度の調査との比較では、学習者数は33.5万人の増加となったが、直近3回(2003年度 、2006年度、2009年度)の調査結果と比べると、2003年度から2006年度、2006年度から2009年度の増加率は20%を超える伸びであったのに対し、2009年から2012年の増加率は9.2%にとどまっており、その鈍化が認められることには注意を要する。また、後述するとおり、学習者数の推移には地域的に大きな差異があることにも留意すべきである。
その上で述べるならば、日本語学習者の一貫した伸びの背景には、この間の日本経済の成長や日本企業の海外進出等による国際社会における日本のステイタスの向上や、それを背景に日本語が各国の中等教育に取り入れられたことが大きい。中でも、最近になって学習者の顕著な伸びが見られるインドネシア、タイ、マレーシアなどでは、人口動態上も中核的な位置を占める中等教育における日本語学習者数が10年以上にわたり一貫して増加しており、これが日本語学習者数を押し上げる大きな要因となっている。