一方、「敬語コミュニケーション」の研究においては、各国の学者、特に早稲田大学の蒲谷宏先生とその研究グループが大きな成果を出している。その研究は敬語コミュニケーションを考えるための枠組み、敬語的性質、敬語的性質による敬語の分類、敬語コミュニケーションの実践など様々な研究が含まれている。しかし、敬語コミュニケーションについての研究はまだ完全とは言えない現状である。日本語学習者を中心とした、適切な敬語コミュニケーションをする方法および敬語コミュニケーションに対する批判的な分析などについての研究も少ない。
本稿では、先行研究を踏まえて、日本人大学生と留学生を対象としたアンケート調査を通じて、日本語学習者の敬語コミュニケーションにおける問題点について研究してみたいと思っている。さらに、これらの調査を通じて、敬語コミュニケーションを体系的に理解し、日本語学習者に適する敬語コミュニケーションの力を付ける方法をみつけることも、本稿の目的としたい。
2.先行研究
2。1敬語コミュニケーションとは
「敬語コミュニケーション」というのは、簡潔に言えば敬語を使って行う言語活動のことである。つまり、「敬語コミュニケーションを考えるためには、表現する人、理解する人が、自分と相手や第三者との関係(「人間関係」)をどうに認識し、その表現に伴う経緯、その時の状況や雰囲気(「場」)をどう捉え、どのような「意識」を持ち、どの
ような「内容」で、どのような「形式」でコミュニケーションするのか、という枠組みを用いるとわかりやすくなる。これは、「だれが、だれに、だれのことを」、「いつ、どこで」、「どういうきもちで」「どう言う中身について」、「どういうかたちで」、表現し、理解するのかといった常識的な捉え方にもとづくものである」(蒲谷宏2014)
「人間関係・場・意識・内容・形式」というのが、敬語コミュニケーションの五つの要素であり、それぞれ大きな役割を果たしている。「人間関係」は、①上下関係―上位者/下位者(上司と部下)、②親疎関係―親しい/親しくない(友人と初対面人)、③立場・役割―社会的な立場と役割(教師と生徒)という三つの軸を含む。そして、『敬語コミュニケーション』(2010}では、「相手(や「話題の人物」)、上下親疎の関係と敬語の有無など言葉の点を含めてレベル化し、「相手(話題の人物)レベル・-1」(親しい友人など);「相手(話題の人物)レベル・0」(初対面の人など);「相手(話題の人物)レベル・+1」(先生や上司など)のように、区別して示している。「場」は、表現主体が認識する時間的・空間的な位置として規定され、改まり/くだけの意識ともつながる。「意識(きもち)」は、なぜ、何のために、どのような気持ちでコミュニケーションをしているのか、ということである。それらが、「内容」や「形式」と連動することによって、敬語コミュニケーションが成り立つと考えられる。论文网
2。2敬語の分類
2。2。1敬語の3分類から5分類へ
2007に年日本文化審議会は「敬語の指針」で敬語を「尊敬語」「謙譲語Ⅰ」「謙譲語Ⅱ(丁重語)」「丁寧語」「美化語」と五つに分類している。ここでの五分類は、三分類と対立するものではない。三分類のうち、「謙譲語」を「謙譲語Ⅰ」と「謙譲語Ⅱ(丁重語)」に、また「丁寧語」を「丁寧語」と「美化語」に分けたことにより、現在の敬語の使い方を深く理解することが出来る。例えば、「友達のところへ参ります」という文章が、従来の考え方では誤用である。しかし、この新しい「謙譲語Ⅱ(丁重語)」では正解とされている。それはなぜかというと、実際には友達を立てるのではなく、目上の人に「行きます」というタメ口のように聞こえてしまうので、「行く」の丁重語として「参る」と言うだけである。