2009年に発表された長編小説『1Q84』は、イギリスの有名な小説家ジョウジ・オーウェルの『1984』に敬意を表し、日本社会の問題を反映した作品である。『1Q84』は3冊に分けられ、刊行されてから三ヶ月で二百万部が発売され、また、短時間で多言語に翻訳され、純文学として世界中でベストセラーになった。各学者は、この作品のテーマを明らかにするために、様々な考察をした。彼らは、村上の作品の創作理由や創作背景を手始めに、小説の構造、主人公のライフスタイルまで研究した。しかし、作品におけるメタファーとそれに反映された日本の社会問題についての調査はごく少ない。本文は作品における各メタファーを中心に、作品のテーマを分析する。
1.1 研究の動機と意義
村上のすべての作品を見ると、多くの作品で暴力と善悪観に言及している。周知のように、暴力と善悪は人間性の中で最も汚い物であり、正義感を持つ作家たちはこれを中心に日本の社会問題を論じている。しかし、村上は、ユニークな視点からユーモラスな手法で人に啓示を与え、人間の共鳴を引き起こした。また、村上の作品における「善悪観」や、「暴力」、「強権主義」などは、多くの研究者に注目され、日本社会に大きな影響を与えている。
しかし、『1Q84』のテーマを明らかにするためには、作品の創作背景とこれに対する評価を分析することはもちろん、小説における最も意深いメタファーの意とそれが反映する日本の社会問題も検討する必要もある。従って、村上春樹の創作的方向性を把握するために、作者の内面的な思考を探し出し、この作品を創作した理由も検討してみたいと考える。
1.2 先行研究
『1Q84』については、様々な先行研究がある。まず、ハーバード大学の日本文学教授ジェイ・ルービンは『村上春樹に聞く―村上春樹の文学世界』の中で、暴力が日本を打開する鍵だと述べている。日本には、黒田大河の『メタフィクションとしての「1Q84」―ねじれた「記憶」と「物語」―』、辻惟雄の『橋と階段 村上春樹「1Q84」などからの連想』、石上敏の『村上春樹「アフターダーク」再論--「1Q84]を読み解く補助線として』などの論文がある。また、村上春樹研究会は『村上春樹の「1Q84」を読み解く』で、この作品の主人公、文章の構成、テーマなどを分析した。風丸良彦は『集中講義「1Q84]』の中で、「現実界」、「想像界」、「象徴界」を中心に、『1Q84』についての自分なりの観点を説明した。日本の文学評論家加藤典洋は、「この小説は、現在の他の小説家の作品とは桁違いに、隔絶している。それぐらいにすばらしい、と考える」と高く評価した。
中国にも、『1Q84』についての先行研究が多くある。シュウハイキン著『1Q84―1984、人間の主体性の喪失』、金玲著『リトルピープルから見る「1Q84]』、霍芳芳著『「1Q84」に現れた日本の暴力性』などの論文は、単一な視点から『1Q84』を分析した。日本文学の研究者である許金龍は『文学解読:日本新興宗教、邪教』で、『1Q84』の中の宗教のモデルとフィクションの人物像の関係を分析した。彼は作品のメタファーが読者にある程度の誤解を与えたと思っている。また、有名な翻訳者林少華は『「1Q84」:当代「羅生門』とその意』で、物語と体制、宗教の影響、人の善悪観についての社会問題を提起した。