花袋の『蒲団』において、物語の筋書きは時雄の心理的変化とともに展開され、主人公の心理的活動がそのストーリーを押し進めている。この点から見ると、『蒲団』は確かに「醜なる心」を描写する作品である。それに、それは「人として気付きにくい野性の呼び声」であり、「自己意識の現代性格」を持つ。吉田精一は『蒲団』が出る前、作者自身の実際の生活に近く、忠実的に事実を記録する作品を超えたものがなかった」と言われたように、「人の前で見せにくい裏心、即ち自分の醜なる心」を赤裸に描き出し、社会の習慣的な形を取らずに自分の真の顔に直面し、そのような態度は作者の正直かつ誠実な本性を表し、世間を驚かせた」 。ここから、『蒲団』における本能描写は西洋の自然主義が「自然」と「本能」に関する観点を参考にしたことがわかるが、「自然」を内化することにより、間主体性を自然客体に切り込んだ。そうすると、外部の「自然」は内部の「本能」的な自然となった。そして非理性的な自然本能への描写は花袋が「自我」に対する追求を反映したものである。