しかし、従来の研究では二者を取り上げてその使い分けの違いを追究したものはそれほど多くない。特に、中国人日本語学習者にとって、「開始」の意を持つ「~だす」と「~かける」の用法は中国語の“开始~/~起来”に間違えやすいと思われるが、それに関する研究はまだ少ない。
そこで、本論文では同じく「開始」の意を表す複合動詞の「~かける」「~だす」に関する意の考察を試み、更に中国語と比較していきたい。
1.2先行研究と問題点
日本語では、動作や状態を表す動詞が豊かに使われている。その内、複合動詞が重要な役割を果たしていることは言うまでもない。複合動詞を使用することによって、文章の意をもっと生き生きさせ、単純動詞だけでは表せない効果を持っているのではないか。しかしながら、複合動詞の使い方は、習得しにくい学習項目の一つだと日本語学習者と研究者が認めざるを得ないことも事実である。李莹(2006)『中国人学習者における複合動詞の習得状況』による学習者と母語話者との間に、ずいぶん差異が存在していることが明らかになっている。母語話者は複合動詞に対する考え方は安定していて、他語彙との区別が説明できなくても、自由に判断したりすることができる。しかし、それに対して、学習者は語彙に対する理解力が低くて、ずいぶん揺れている。」という70名の被験者における結果から複合動詞の習得の難しさが分かる。主な原因は、例えば、「~出す」「~かける」「~合う」のような高生産性複合動詞が、様々な前項動詞と結合し、結合した動詞によってその意と用法は異なる所にある。多義的且つ意限界が不明瞭な複合動詞は、学習者母語との対応関係を見つけることが困難になる。それゆえに、複合動詞の習得は必ずしもやさしいことではない。筆者は、難しさが存在するからこそ、研究の必要や価値がもっと増加されていると考えている。
「~だす」と「~かける」に関しては多くの先行研究があげられ、次のような研究はその代表的なものといえる。
1.姫野昌子(昭和53)『複合動詞「~かかる」と「かける」』
姫野昌子によると、「~かける」は「指向」と「始動」の二つの意に分けられ「指向」は、対象に向かって、動作、作用が及ばされるということが見られる。「始動」は動作・作業の始まりや動作が未完遂であることを表す。
2. 姫野昌子(昭和52)『複合動詞「~出る」と「~だす」
姫野は「~だす」の意を語彙的複合動詞と統語的複合動詞の二つの視点から研究した。語彙的複合動詞は「移動」と「顕在化」に分けられ、統語的意複合動詞は動作の発生、開始を示していると指摘している。
3. 日野資成(2002)「複合動詞『~だす』の分類―統語論的.意論的方法を使って」
日野では、まず複合動詞を作る生産性の高い順に動詞19語を抜き出した。その中の一つである「出す」については全部で62語の複合動詞が挙げられている。それらの複合動詞から、9語の複合動詞を抜き出し、その後項要素を補助動詞とした。