2.先行研究
2.1日本における家庭内暴力の研究
日本における家庭内暴力に関する研究は、女性への暴力を社会構造や社会経済的条件との関係を捉えた社会学分野と、家庭内を個人の心理メカニズムに還元する心理学分野など、各々の学問分野で焦点化されてきた。
小西聖子(2008)は、内閣府の男女間の暴力に関する調査、および厚生労働省の調査などを中心に被害の実態を分析し、精神健康の分野における家庭内被害者への適切な支援が重要だと考え、家庭内被害の実態と実証研究を行った。小西によると、日本における精神健康分野において、家庭内暴力研究は着実に進展しているが、家庭内に限らず女性に対する暴力の臨床を専門とする臨床家も相対的に少なく、研究者も少ないため、論文もさらに少ないというのが現状であり、今後家庭内によるPTSD(心的外傷後ストレス障害)への認知行動療法が期待されると述べている。
蓮井江利香(2011)は、配偶者間の家庭内における「別れにくさ」を主とする理由のため、女性が経済的事情や子どもの養育といった生活上の問題という経済的な不安を抱えることもあり、恋愛感情を理由に束縛や行動の制限や強制などを正当化されたり、親密な関係であるがゆえに暴力が許容されるべきだと合理化されたり、加害側と被害側の双方に認知のゆがみが生じやすいという特徴があると述べている。
2.2中国における家庭内暴力の研究
中国における家庭内暴力に関する研究は、まったく違った段階を経ている。劉栄、田中豊治(2009)は中国における家庭内暴力について、新中国が成立して以来80年代まで、女性は男性との平等になれないため、生まれた時から自分のあらゆる権利を主張できなくなっていると述べた。その上、男性の都合で暴力を振るわれ、家庭内暴力が社会問題になっている。一般家庭では、夫婦共働きで家計を維持し、それぞれが収入を有し、家庭の経済面において女性も自主権を持つようになってきた。さらに、80年代に入り、市場経済が導入され、女性の自我意識が強くなり、自我に基づいた生き方をする自主権が保障され、さらに寛容になった社会で発展のチャンスを得て、自尊・自愛・自立・自強という主体性が強調され、自由に職業を選べるようになった。
中国は多民族国家であり、さらに同民族であっても結婚や家族の定義にも地域差があるが、「家族」や「家庭構成員」の明確な定義は、保障法・婚姻法のどちらの法文中にも見られない。鄭澤善(2007)が指摘しているように、「家庭内暴力」の明確な定義も法文中には見られないが、2001年12月24日から実施された最高人民法院の婚姻法の適用に関する法的解釈では、家庭内暴力を「行為者による殴打、縛り、傷つけ、自由の制限およびその他の手段で家族に肉体的、精神的傷害の結果をもたらす行為で、持続的、経常的な家庭内暴力は虐待の構成要件に該当する」とされている。
3.日本における女性に対する家庭内暴力
3.1 日本における家庭内暴力の概念
まず、「家庭内暴力」の範囲を明らかにする。日本では、法律上における具体的な暴力の定義として、『家庭内暴力防止法』 第1条に、「この法律において『配偶者からの暴力』とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす」と総称すると明記されている。また、広義でとらえて見れば、よく言う「ドメスティック・バイオレンス」(Domestic Violence)という言葉のDomesticは「家庭の」という意をもっており、直訳すると「家庭内暴力」となる。しかし、日本でいう「家庭内暴力」は子どもから親への暴力、親から子どもへの暴力、老親への暴力等を指しているとされる。