これは『日本霊異記』に収録された狐女房の話であり、狐直という氏族の由来である。劉克華も「『日本霊異記』美濃国には、狐の名称由来についての最古の話がある」と述べている。
以上の二つの昔話によって、日本の狐女房の話はある共通点があることが分かる。つまり、ある男が狐を助けて、その狐が女に化けて、妻になり、子供も出来る。そして、もとの狐の姿が発覚し、子供を残して去る。最後、残された子供の多くは出世して高名な人となる、ということである。
このような昔話は、ストーリーの筋が違うが、その中核は変わらず、いずれも「子別れ」ということが据えられている。換言すれば、これらの説話は狐の生態に魅力を感じた人々が、「子別れの儀式」をめぐってさまざまな狐女房の話を作ったものであると考えられる。
2.狐憑き
日本では狐に対して独特なイメージを持っている。その中でも狐憑きという現象がある。憑依現象は世界中にいろいろ見られる。憑依というのは簡単に言えば、霊などが人間に乗り移ることである。つまり、狐憑きは狐の霊に取り憑かれたと言われる人の精神の錯乱した状態である。
日本では、狸、蛇、犬神などの妖怪も人に憑くと信じられている。しかし、狐憑きという俗信は全国的に根強く信じられていて、日本文化の中でますます重い地位を占めてきた。
狐憑きは大きく2つの類型に分けることができる。ひとつは狐が自分の都合で憑いた類型、いまひとつは狐が人から迫害を受けて復讐するために憑いた類型である。昼田源四郎は「憑依現象のなかには、善なる神が憑依するばあいと、悪神や邪悪な意志をもった霊魂が憑依するばあいとがあった124」と述べている。したがって、筆者は一つ目の類型を善なる神が憑依する場合として、二つ目の類型を悪神や邪悪な意志をもった。
(1)狐が自分の都合で憑いた類型文献综述
このタイプの狐憑きは、狐は自分の要求のために、人に憑くことである。
このような狐憑きの類型の由来は中世からの狐信仰に関わっている。中村禎里は「中世にすでに神狐信仰が始まっていて、近世になると、江戸を中心に神狐が稲荷と結託し、人々との交渉を日常化し、その過程で狐はおのずから人に憑いたためとしている」と述べている。
即ち、この種類の狐憑き現象は、動物霊の狐が人間に乗り移って、何かの頼みを訴えることを本義としていたのであり、善なる神が憑依する場合である。
(2)狐が人から迫害を受けて復讐するために憑いた類型
このタイプの狐憑きは、人に憑く狐は悪神や邪悪な意志をもった霊魂が憑依する場合である。狐が人から迫害を受けたので、報復するために病や災禍として人間に憑依するという。
そして、時代の変遷につれて、狐憑きは本来の姿がだんだん変わっていった。現在、医学が進み、自分の意識を失い人格も変わり、狐のようになる狐憑きという現象に対して、精神病の一種として見られている。
医学の角度から見ると、昔から今までの、狐が憑依して発生した現象は否定さるべきものであった。江戸後期の文化年間(1804-1818)、陶山大禄(1758~1845)という医者が初めて、狐憑きは無稽的な虚説であることを論じた。そして、それらの現象は全部脳の病変が関係していることを発見したという。川村邦光は次のように述べている。