4.『容疑者Xの献身』主要人物の分析 7
4.1 石神哲哉 7
4.2 湯川学 8
4.3 靖子母娘 9
5.おわりに 10
参考文献 11
1.はじめに
文学は時代を映す鏡であり、時の流れと共に変化していく。日本の現代文学も今の社会 や人間の様子を反映できるに違いない。従って、日本の人情風俗をより深く理解するには、 その文学作品を読むのはひとつの良い方法ではないかと考えられる。
そこで、現代日本のトップミステリー作家として、多くの読者に支持されている「東野 圭吾」に焦点を当て、その作品を分析することによって、東野小説の特色と価値を明らか にしたい。東野圭吾は、1985 年『放課後』で第 31 回江戸川乱歩賞を受賞したあと、専業 作家になった。1999 年『秘密』で第 52 回日本推理作家協会賞を受賞し、多くのファンを 得、徐々にその作風を広げている。2006 年に『容疑者Xの献身』により、第 134 回直木 賞受賞後、圧倒的な人気を集めている。映画化やテレビドラマ化された作品もたくさんあ って、現代日本の社会現象や人情風俗が反映していると言えよう。普段推理小説を殆ど読 まない筆者が、偶然に書店で手に取って購入したのは、その『容疑者Xの献身』だった。 あまりにも面白かった作品で、推理小説というジャンルに興味を持つきっかけとなった。 それも東野小説を研究したい動機の一つである。
本論の資料を集めた時、以下の先行研究が見つかった。狩谷新氏の『メディアミックス による小説世界の変化:東野圭吾の主人公描写』は人物描写を中心として、「出版・放送 という異なる二つのメディアが一つの作品を完成させる、という仮定を立証しようとする」
1ものである。増満圭子氏の『現代文学が語るもの:東野圭吾「分身」論』は東野作品に
「映し出されている「現代」的切片を検証する」2ものである。和田勉氏の『東野圭吾論』 はその作品を「分析することによって、現代日本文学の状況について新たな視座」3を提 示した。以上述べた論文は殆ど東野作品と「現代」の関連性を解明したが、本論は主にそ の小説の特色(読みやすい文章・絶妙のトリック・独特の理工系の世界)と価値に着眼す るのである。まず東野圭吾とその推理小説を紹介する。次は『容疑者Xの献身』を通して、 東野小説の特色を述べる。最後に主要人物を分析することによって、その小説の持つ特色 と価値が明らかにしたい。
2.1 東野圭吾について
2.東野圭吾と推理小説
東野圭吾は、1958 年大阪市生野区に生まれた。その地で育ち、以後の作品には大阪の 下町を舞台にして、登場人物に大阪弁を喋らせるのは少なくない、自身の体験も幅広く取 り入れられている。高校二年生の時、小峰元の作品を読み、推理小説に初めて嵌る。さら に松本清張の著作を読みあさるようになり、やがて推理小説を書き始める。大阪府立大学 工学部電気工学科を卒業した後、日本電装株式会社に生産技術エンジニアとして勤務。仕 事の傍ら推理小説を書き、27 歳の時に第 31 回江戸川乱歩賞を『放課後』で受賞した。翌 年、愛知県の会社を退職し、上京した。以後は専業作家としての道を踏み出すこととなる。