中国の滞在は彼の創作に強い影響を与えた。ほとんどの作品が中国に眼を向けたものであり、浙江 の杭州領事館を舞台としている『城外』もその一つである。
それ以外、小田嶽夫は中国の昔話を大幅に変えたうえ、『断橋の佳人』という作品を書き出した。 浙江を舞台とした作品は『女蛇の人恋い』、『杭州で会う』、『聚景園であった女』、『賈雲華の生まれ変 わり』、『断橋の佳人』という五篇である。『漂泊の中国作家』にも「杭州彷徨」といったような作品 が見られる。
小田嶽夫は小説家だけではなく、中国文学の研究者や翻訳家としても有名である。郁達夫と魯迅の 研究者としての彼は『郁達夫伝―その詩と愛と日本』と『魯迅伝』を著した。作品の中に、二人の一 生を詳しく描いただけではなく、当時の浙江の社会状況を客観的に描き、彼なりの浙江に対するイメ ージを表した。小田嶽夫は魯迅を時代の寂しくて孤独な受難者だと認識し、魯迅の批判精神を高度に 評価した。
1。2 研究目的と意義
前節では、小田嶽夫と彼の作品を説明した。本節では、研究の目的と意義について述べてみたい。 日本文人と中国の関係についての研究は多くあるが、小田嶽夫に関する研究はまだ不十分であると
言えよう。少ない先行研究の中で、代表作『城外』についてのものが一番多く、『断橋の佳人』や『郁
達夫伝―その詩と愛と日本』、『魯迅伝』、『漂泊の中国作家』などの作品についての研究が少ないこと が事実である。また、杭州で体験した生活と郁達夫の作品が小田嶽夫の創作に影響を及ぼしたことは
ほとんど言及されなかった。 本論文は、小田嶽夫のこれらの作品に着手し、分析を行い、浙江を舞台にした作品、魯迅・郁達夫
との関係、小田嶽夫の浙江観という三つの部分から小田嶽夫と浙江との文化的関係を探し出すことを 目的とする。この論文を通して、小田嶽夫の浙江観をより詳しく明らかにし、日本文人の中国観に対 する理解をいっそう促進することができると思われる。论文网
本節では、研究の目的と意義を簡単に述べたが、詳細なことは改めて第二章と第三章及び第四章で 論述することとする。
2。浙江を舞台にした作品
本章では『城外』・『断橋の佳人』・『漂泊の中国作家』という彼の浙江を舞台にした作品を紹介、 分析してみたい。
2。1 『城外』
主人公「私」は異邦人として、心の中が最初の孤独が生じ・桂英に寂しさが慰められて穏やかにな り・最後に桂英が去って孤独がまた生じたという三つの段階で変化した。
二十五歳の「私」は上級者に支那杭州の領事館へ派遣された。季節は秋に入って、一人で寝ている と、秋風のぴょうぴょうと鳴って吹く音が、魂の凍りそうな寂寞感をそそって「私」の耳にひびいた のは友達と家族へ遠い思いを馳せた。しかも、領事は「私」に初手から圧迫を持って迫ってきた。生 活と仕事あって、孤独感が生じ、「私」は青春の酣にいたが、天涯孤客のような気がした。慰められ たかったあげく、桂英と愛欲があった。目に一丁字もなかったが、頭の働きが利いた桂英も「私」の 晩酌の際の話し相手になり得た。
領事館は取り払われた銭塘門の跡をわずかそれた城外の道端の崖上にあった。すなわち、領事館は 杭州城の外にあった。城内の繁華にひきかえ、城外はさびしいである。「私」はにぎやかな城内を出、