しかし、日本語を第二言語とする外国人にとって、豊かでさまざまな意味・用法を備えている複合動詞の理解と使用はとても困難である。日本語学習者でもある筆者の経験からも、複合動詞を使いこなせることは難しい。例えば、「一日中、強い風が吹き通した」と表現したいところを「一日中、強い風が吹いていた」としか表現できないなど、自分が述べたい内容を十分に表現しきれないのに困っていた。
外国人日本語学習者の複合動詞に関する習得状況について、森田(1978)は以下のように述べている。
外国人が日本語を学ぶ場合、教科書によって与えられる動詞のほとんどは単純動詞である。学習者は個々の単純動詞の意味・用法には習熟するが、それらの動詞を組み合わせた複合動詞については、学習の機会があまりない。したがって、複合動詞に関する日本語力が不十分なまま上級段階に進んでしまい、圧倒的に多い複合動詞の波にぶつかって苦しまねばならぬ。すなわち個々の単純動詞が既習語であっても、それらが合成する全体の意味が理解できるとはかぎらない。類推によってあてずっぽうに解釈しているのが現状であると言ってよかろう。(森田1978,p。73)
たしかに、森田(前掲)は外国人日本語学習者の複合動詞に関する習得状況について、「類推によってあてずっぽうに解釈しているのが現状である」のように概ねに紹介した。また、その原因についても「学習の機会があまりない」と言及している。しかし、国によって、
やはり学習者それぞれの複合動詞の習得現況とその現況になった原因は一概に言い切れないであろう。
そこで、本稿では中国人日本語学習者の複合動詞 に関する習得状況に注目し、以下3つの作業を行う。(1)中・上級レベルとした中国人日本語学習者を中心とするアンケート調査を実施する。(2)アンケート調査の結果を整理・分析し、日本語の複合動詞の習得はどこが困難であるかを明らかにする。(3)複合動詞に関してどのような誤用が見られるのかを示す。
2。先行研究と本研究の立場
2。1。 先行研究
2。1。1。 森田(1978:80-84)
複合動詞の意味の度合いによって、森田は以下の五つの段階に分類している。
第1段階 並列関係
二つの動詞が結び付いて生ずる意味関係として最も単純なものは、両動詞が対等の関係で並列する「してする」形式である。動詞の中には、「て」を介して二つの動詞が結合し合い、1語の動詞のように働く形式が稀に見られる。
(受けて立つ、うって変わるなど)
これらは特定の動詞同士が結合して固定したものであるが、後接部が比較的自由にいろいろ な動詞と結びついて、前後の意味関係がさらに発展すれば補助動詞となる。
複合動詞の中には、右のような「て」を介する言い方と、介さずに直接するものと2種あって、どちらも使われるという語がある。
(書いて捨てる/書き捨てるなど)
いずれも「してする」という対等の動作関係にあるため、2種の形式が並び行われている例であるが、一般の複合動詞はむしろ「て」の助けを借りずに直接する形となっている。
(中略)
こうした意味差は必ずしも画然とは区別できない。いずれも「してする」の意味関係をなし「踏んで固める、言って聞かせる、遊んで暮らす」と「~て」の言い換えの可能な例が多い。つまり上下の動詞がまだ独立しており、お互いに意味を発揮しあっている並列関係の段階にあるとも言える。この種の複合動詞は外国人に比較的理解しやすい。